『マンチェスター・バイ・ザ・シー』――海が見つめる

仕事で疲れたときに、不思議と海を眺めたくなる瞬間がある。
狭い世界での暮らしに息が詰まりそうになっているからかもしれない。
 
海ははるかに開かれていて、その先の見知らぬ世界のことを想像させてくれる。
世界は広く、そこには様々な可能性があるということを、端的に再確認させてくれる場所が海なのだと思う。
 
ではもしも、そんな海が陸に住まう我々を眺めていたとしたら。
閉ざされた世界で窒息する人々は、さぞ哀れに映っているのかもしれない。
 
『マンチェスター・バイ・ザ・シー』は、そんな錯覚を誘う。海が、見つめている。
 

 
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『この世界の片隅に』――失われたものを思うこと

その戦争が終わったとき、すずは怒っていた。
「なにが総力戦だ。まだここに5人も残ってるのに。左手も両足もあるのに」と。
家族を体を食物を、すべてを奪う争いについに終止符が打たれたというのに、すずは怒っていた。
 
すずはとりわけ愛国者というわけではない。勝敗にこだわるタチでもない。
それにも拘わらず、すずはこみ上げてくる怒りを抑えられずにいた。
 

 
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李相日『怒り』――物語の悲鳴

近年稀に見る映画豊作の年になっている。
7月には『シン・ゴジラ』、8月には『君の名は。』と久々の邦画の大ヒットに恵まれたが、李相日監督の『怒り』も前評判ではそれに劣らない。
日本アカデミー賞を数多くの部門で制した『悪人』の吉田修一・李相日の原作者・監督コンビで、キャストにも渡辺謙、宮崎あおいを筆頭に日本屈指のメンバーが並ぶ押しも押されぬ話題作である。
今年度も各賞のタイトルレースに加わってくることに間違いはないだろう。
 

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入江悠『太陽』

大人になってもスプラッタ映画が苦手で仕方ない。
鑑賞すると相当に消耗するので、怪しいものはできるだけ見ないようにしているのだが、ごくまれに事前の予想を裏切るバイオレンスを挿入してくる作品があって、それらは心の準備ができない分余計にタチが悪い。
 
入江悠監督の『太陽』はまさにそのタイプの映画で、鑑賞後にはどっと疲れる羽目になった。
ただ、その疲れの質は少し特殊で、スプラッタのそれが純粋に体力を消耗させるとすれば、『太陽』はむしろ精神を消耗させる、と言い表したくなる作品である。
 

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